同時通訳で伝えたウクライナ大統領の国会演説

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ウクライナのゼレンスキー大統領が、3月23日(水)午後6時から、日本の国会で約12分のオンライン演説をおこないました。

「アジアで初めてロシアに対する圧力をかけた国」として日本の対応を評価し、今後も制裁の継続を呼びかける内容です。

演説は、「大統領が母国語のウクライナ語で語る言葉を日本語に同時通訳する形式」で、テレビやネットでライブ中継されました。

※演説全文の英訳と和訳は、それぞれ下記サイトでご覧になれます。

演説の日本語訳:日本経済新聞

まず、ゼレンスキー大統領がどんな人物なのか、Wikipediaの略歴を一部引用します。

ゼレンスキー大統領の略歴(Wikipediaより抜粋)

出生 1978年1月25日(44歳)

俳優としてのキャリアを積む前、キエフ国立経済大学(ウクライナ語版)で法学の学位を取得した。

その後、コメディーを追求し、制作会社Kvartal 95(ウクライナ語版)を設立、映画、漫画、テレビ番組を制作しており、ウクライナ大統領を演じたドラマ『国民の僕(ウクライナ語版)』もその一つである。

同シリーズは2015年から2019年にかけて放送され、絶大な人気を博した。テレビ番組と同じ名前を持つ政党「国民の僕」が2018年3月、Kvartal 95のスタッフによって作られた。

2018年12月31日夜、1+1 TVチャンネルでペトロ・ポロシェンコ大統領の年頭演説と並行して、2019年ウクライナ大統領選挙への立候補を表明した。

政治的アウトサイダーである彼はポピュリストとして人気を誇り、選挙に向けた世論調査ですでにフロントランナーの一人となっていた。

経済再生や汚職への取り組みなどを公約に掲げ、第2回投票では73.2%の得票率でポロシェンコを破り当選した。

2019年5月20日、第6代ウクライナ大統領に就任した。なお、彼の当選により、ウクライナはイスラエル以外で唯一、大統領と首相が共にユダヤ人である国となった。

2022年3月23日、日本の国会で国会議員に対してウクライナ元首として初めて、日本の国会では初めてのオンライン方式で国家元首として演説を行なった。

「ウクライナ語の演説を同時通訳で伝える」という形式

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この演説は、「ゼレンスキー大統領がウクライナ語で語る言葉を、同時通訳の日本語を通じて聴衆が理解する」というもの。

今回のコラムでは、「ウクライナ大統領の国会演説」を、「形式」の面から振り返ってみました。

林外相が演説を聞きながら「大あくび」した理由

国会でゼレンスキー大統領の演説を聴いている途中、岸田文雄首相の隣で「あくびする姿」が映し出された林芳正外相。

当然ながら、「けしからん」「日本の恥!」とTwitterなどのSNS上でたたかれています。

語句の注釈)yawn(動)あくびする、address(動)演説する、Diet(名)国会、caution(名)警告、注意、FM = Foreign Minister:外務大臣、demonstrate(動)実演する、infamous(形)悪名高い、routine(形)習慣になっている、MP = Member of Parliament:国会議員、catnap(名)居眠り、session(名)開会期間

和訳)なんと、ゼレンスキー大統領がオンラインで国会議員たちに演説してる最中、日本の林外相がマスクの下であくびしてる!隣の岸田首相が、たしなめてるように見えたけど。

この外相、国会中に居眠りするっていう、日本の議員たちの恥ずべき習慣を世界に対して実演してるに等しいわ。

これは確かに失礼ですし、政治家としてプロ意識に欠ける行為です。批判されて当然でしょう。

が、その一方で、なぜ林外相が居眠りしてしまったのか、ほんの少しだけ状況が想像できるのです。

ゼレンスキー大統領の国会演説(日本語への同時通訳付き)

同時通訳はたった数分でも大変な作業なのに、最初から最後までひとりの方が担当しているようです。

「演説の生中継を視聴した」という私の受講生数人に「どうだった?」と感想を聞いたところ、こんな答えが返ってきたからです。

– 大統領領の声より、同時通訳の人の演説を聴いてるみたいだった。

– 日本語がときどきわかりにくく、意味を理解するのに少し苦労した。

これらの感想から、「ウクライナ語が全くわからない中、マスク姿で集中するのは意外と大変だったのでは?」と推測できるのです。

誤解がないように補足すると、林外務大臣の行為を正当化する意図は全くありません。

そもそも大統領に対する敬意が足りず、当事者意識と緊張感がなさすぎです。

同様に、同時通訳の方の技能を批判するつもりもありません。

「ウクライナ語を日本語に同時通訳する」となると、対応できる人材が限られ、難易度の高い業務であるのは明らかです。

同時通訳を担当した女性は、プロ通訳ではなく、ウクライナ大使館の職員または外交官だったとのこと。

実際、この方のパフォーマンスは素晴らしく、ネット上では、称賛や応援のコメントが多数寄せられています。

ここで問題にしたいのは、ライブ中継の際、「ウクライナ語を日本語に同時通訳して伝える」方法が果たしてベストなのか、という点です。

ゼレンスキー大統領は諸外国でも演説をしており、「ウクライナ語の演説を同時通訳付きでおこなう」と決まっているのかもしれません。

だとしたら仕方ありませんが、ひとまずその制約がなかったとして、あえて「他の選択肢」を考えてみました。

「原稿を入手し、日本語字幕を作成する」という選択肢

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ゼレンスキー大統領が、「日本人の心に訴えかける」ことを意図していたなら、やはり「自分の肉声を聞かせながら、日本語字幕を表示する」方法が効果的だったと思います。

私自身、海外ドラマや映画は必ず字幕版で視聴します。俳優の「声のトーン」や「話し方」も物語を構成する大事な要素であり、これを日本語に吹き替えると、全く違う雰囲気に変わってしまうからです。

中には、「字幕を読むより、吹き替え音声を聞くほうが楽」という人もいらっしゃるので、あくまで自分の場合です。

それと同様に、外国人のスピーチも、なるべく話し手の声を直接聞きながら、感情を共有したいのです。

ウクライナ語の場合、日本語字幕があれば意味がわかるので、ストレスにはならないです。

これに対して、同時通訳者を使うと、以下のどちらかの形式にならざるを得ません。

① 大統領の声をほぼ聞こえない状態にして、同時通訳者の日本語を聞く。

② 大統領の声の上に同時通訳者の日本語をかぶせ、両方を聞く。

①は割合に聞きやすい環境ですが、せっかくの大統領の声が聞こえないので「演説にこめられた感情」が伝わらず、退屈になります。

②は大統領の声で臨場感が伝わってくる一方、2つの言語が同時に耳に入るため、気が散って意味がわかりにくくなります。

ネット上の報道によると、今回の国会演説は、「事前の打ち合わせがほとんどないまま、本番を迎えた」とのこと。

内容を伏せておくことで、サプライズ効果を狙ったのか、本番直前まで内容を練っていたのでしょうか。

もし、スピーチ原稿を事前に入手できていなかったとすると、同時通訳の負担が大きすぎて気の毒です。

あくまで一般論ですが、通常、「8〜9割がた仕上がった演説原稿」が事前に準備できているはずです。

スピーチ原稿を前日までに入手すれば、本番までに、和訳の字幕を作成できたのではないでしょうか。

本番直前に多少の修正が入ったり、演説中にアドリブがあったりしても、話の大筋がわかれば十分です。

一字一句和訳する時間がない場合、要点を示した和訳があるだけでも理解度が違います。

ゼレンスキー大統領の国会演説(日本語の見出し字幕付き)

上記の動画は、演説の「内容の見出し」が日本語字幕で表示されています。

日本語字幕は、ライブ中継後に追加したものでしょうか。

やはり、字幕が付くと断然わかりやすいですね。この動画は、字幕なし版動画の2倍の回数で再生されています。

「一部でも英語でスピーチする」という選択肢

これは贅沢な注文ですが、ごく一部でもいいので、英語でスピーチしてもらえたら、さらに良かったです。

そうすれば、通訳や字幕なしに直接理解できる人が圧倒的に増えて、共感が高まったんじゃないかな、と感じます。

実際には、ゼレンスキー大統領はアメリカ議会に対してウクライナ語で演説しており、実現の可能性は低いですが。


以上、ゼレンスキー大統領のオンライン国会演説を、「形式」の面から振り返ってみました。

あなた自身は、今回の演説の形式について、どのように感じられましたか。

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2 thoughts on “同時通訳で伝えたウクライナ大統領の国会演説

  1. sunflower より:

    I was listening to the live speech made by President Volodymyr Zelenskyy. Honestly speaking, it was hard to concentrate on his talk, because the translated Japanese was sometimes difficult to follow. Later I was able to read the subtitles of the main part of his speech and that helped me a lot. His speech was well structured and impressive.

    As Japanese foreign minister, Mr. Hayashi shouldn’t have yawned under his mask even though it was hard to follow the speech. Simply, it was not nice.

    通訳さんは、同時通訳者ではないのに頑張ってらっしゃいましたね。ウクライナから日本語の同通できる人材なんてほぼいないのではないのでしょうか??より効果的に伝えるって大事ですね。そして「聞く」ことが得意な岸田首相を支える外務大臣なら、もう少し緊張感をもって臨んでほしかったですかね、お疲れだったのかもしれませんが…

  2. Imogene より:

    私が外務大臣だったら、今後の日本の態度を決める立場として、必死に理解しようとすると思うので、半分寝ていても職務を果たせるのはすごいな!と思いました。私が拙い英語で必死に話している時にあくびをされたら、心が折れます。私は、誰かに教わった覚えはありませんが、人の話を聞いている時にはあくびは失礼に感じてしまいます。ただ、世界に目を向けると、アメリカの人には、良い意味で、放屁、欠神、擤鼻などの生理現象は抑えなくともよいという感覚があるように思います。もしかして、そういう環境で育たれたのかな?と思いました。私は、自分の子供が人の話を聞いている時にあくびをしたら、ぶん殴ります。

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