ワリエワがドーピング騒動でメダル逃す大波乱!

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異例のフィギュア女子シングルを振り返る

大荒れの展開となった、北京冬季五輪のフィギュアスケート女子シングル。

彗星のごとく現れて世界最高得点を更新し、金メダル確実といわれたワリエワ選手のドーピング問題と、フリーでのありえない大崩れ。

誰も予想しなかったフィギュア女子シングルのてん末を、英文記事と英文Tweetを交えて振り返ります。

「絶望」の異名を取る天才スケーター

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ロシア人のカミラ・ワリエワ選手は、2006年4月26日生まれの15歳。

2021年12月24日のロシア選手権ショート・プログラム(非公式)では、なんと、自身の世界最高得点を上回る90.38点をマーク!

ライバルたちを「この子に勝つのは無理」と戦意喪失させることから、「絶望」の異名を取っていたそうです。

英語サイト「Figure Skating Wikia」では、次のようにプロフィールを紹介されています。

https://figure-skating.fandom.com/wiki/Kamila_Valieva

Kamila Valeryevna Valieva (Russian: born April 26, 2006) is a Russian figure skater. She is the 2022 Winter Olympic champion in the team event, the 2022 European champion, a two-time Grand Prix champion (2021 Rostelecom Cup and 2021 Skate Canada), and the 2022 Russian national champion.

ワリエワのドーピング疑惑とIOCの判断

そして、ワリエワ選手が大きな期待を背負って迎えた北京冬季五輪。

まず、フィギュア団体戦に出てロシアの金メダル獲得に貢献した後、女子シングルを控えて大騒ぎになりました。

彼女が、昨年(2021年12月)に受けたドーピング検査で、陽性反応だったことが発覚したからです。

以下、FOX19 NOW の英文記事より引用です。

Allowed to compete in Olympics despite positive drug test, Kamila Valieva fails to medal in figure skating

Valieva had tested positive for a banned heart medication at the Russian championships in December, but the result was not revealed until last week, shortly after she helped to win a team gold medal that is now also in doubt.

国際テスト機関(ITA)によると、ドーピング違反が明らかになったのは、北京五輪開幕後の2月8日だったとのこと。

検査結果が公表されるまで、えらい時間がかかってますね。

で、ここからがさらに問題です。

この結果を受けたスポーツ仲裁裁判所(CAS)は2月14日に、ワリエワ選選手の出場継続を認める判決を言い渡したのです。

She was cleared to compete earlier this week by the Court of Arbitration for Sport, which ruled that she had protected status as a minor and would suffer “irreparable harm” if she was not allowed to perform.(FOX19 NOW より)

この記事によると、理由は「15歳という若い年齢で保護の対象であり、出場禁止になった場合の精神的ショックが大きすぎるから」。

う〜ん、なんだかよくわからない根拠ですね。誰もが納得できる論理的な説明だとは思えません。

IOCのバッハ会長

さらにわかりにくいのは、IOCの示した「もしワリエワ選手が上位3位に入った場合は、メダル授与式を延期する」という方針です。

そのとき、私が思ったのは

(え、もしワリエワが3位以内に入ったら…って普通に入るやろ)

(メダル授与式を延期する? 他の選手も巻き添えかい)

たぶん、世界中に同じ感想をもった人が多数いたのではないでしょうか。

こちらは、アメリカの陸上女子短距離のシャカリ・リチャードソンによるTweetです。

彼女は昨年、東京五輪代表選考会の検査で大麻の成分に陽性反応を示したため、五輪に出場できませんでした。

「唯一の違いは、自分が黒人の若い女性であること」とIOCの対応を痛烈に皮肉っています。

ワリエワ選手が北京五輪への出場継続を認められたのは「二重基準だ」だというわけです。

まあ、当然ながら、こういう疑問も湧いてきますよね。私もなぜなのか説明できません。

フリーで精細欠くワリエワがまさかの4位に

果たして、ワリエワ選手が出場を強行した女子シングルの結果はどうだったのか…。

ショートで首位発進だった同選手は、珍しくフリーで大きく崩れ、よもやの「4位」に沈んでしまいました。

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ドーピング騒動で揺れたとはいえ、まさか表彰台を逃すとは、いったい誰が予想したでしょうか。

が、冷静に考えてみれば、この厳しい風当たりや重圧の中で、普段の実力を発揮するのは難しくて当然です。

そういう意味で、彼女も被害者なのかもしれません。演技を終えて号泣する姿が痛々しかったです。

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金メダルは、同じROC※のアンナ・シェルバコワ選手(中央)、銀メダルもROCのアレクサンドラ・トルソワ選手(左)。

そして、銅メダルがなんと、完璧なスケーティングを披露した日本の坂本花織選手(右)!これは本当にあっぱれです。

※ROC:組織的なドーピング問題によって、ロシアは2022年12月まで主要国際大会から除外されています。

ただし、疑惑のない選手は「ROC(ロシア・オリンピック委員会)」代表として、個人資格での五輪出場が許可されています。

この波乱の展開を、先ほどの英文記事では次のように表現しています。

A Russian woman was standing atop the figure skating podium at the Beijing Games on Thursday night.

It just wasn’t the one anyone expected.(FOX19 NOW より)

「ロシア女子が表彰台の頂上にいたのは予想通りだが、その人物が違っていた」というわけです。

ワリエワ選手には気の毒ですが、メダルを取った3選手の立場を思うと、表彰式があって良かったです。

ワリエワ指導コーチ「なぜ戦いをやめたの」と叱責

ロシア勢を指導した女性コーチ、エテリ・トゥトベリーゼ氏もネット上で話題になってます。

フリーの演技で精細を欠き、何度も転倒したワリエワ選手に対し、終了直後に「何で戦うことをやめたのよ (Why did you stop fighting?)」と厳しく叱責したからです。
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しかも、IOCのバッハ会長までが、その様子を「思いやりのない冷たい態度(tremendous coldness)で、寒気がする(chilling)」と、次のように不快感を示しています。

Bach criticizes Russian figure skater Kamila Valieva’s entourage for their ‘tremendous coldness’

International Olympic Committee president Thomas Bach on Friday criticized Russian figure skater Kamila Valieva’s entourage for their “tremendous coldness” toward the 15-year-old skater after her mistake-filled free skate at the Beijing Olympics.

Bach said it was “chilling” to see on television. Valieva, who has been at the center of a controversy over a positive doping test, finished fourth overall despite placing first in the women’s short program earlier in the week.

The IOC president did not name Valieva’s coach, Eteri Tutberidze, who was seen on camera telling a visibly upset Valieva “Why did you let it go? Why did you stop fighting?”

Bach said “you could feel this chilling atmosphere, this distance.”

この状況が生まれたのは、「IOCがワリエワ選手の出場を許可したから」ともいえるので、バッハ会長が批判できる立場にあるのかどうか微妙ですが。

ワリエワの五輪出場にSNSで疑問の声

今回の騒動に対し、2008年の世界選手権で男子銅メダリストのジョニー・ウィアー氏、長野五輪の女子シングル金メダリストのタラ・リピンスキー氏は、そろって次のように述べています。

「ドーピングで陽性反応が出たワリエワは、年齢に関係なく出場すべきではない」という見解ですね。

他にも、五輪でつらい体験をしたワリエワ選手に同情しつつも、出場すべきでなかったとするTweetが多数見られました。


そんな中で、ロシアのプルシェンコ氏(2006年トリノ五輪の男子金メダル)、メドベージェワ選手(2018年平昌五輪の女子銀メダル)は、それぞれInstagramで激励の言葉をかけています。

自国の偉大な先輩たちからの後押しに、ワリエワ選手が少しでも元気づけられると良いですね!

4回転を5本跳んでも銀メダルで悔し泣きのトルソワ

本来なら、金メダルのシェルバコワ選手について触れるべきですが、今回はあえて、銀メダルのトルソワ選手のほうに注目したいです。

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彼女がフリーで「4回転ジャンプを5本」という驚異的な構成を成功させたにもかかわらず、金メダルを逃して不満を爆発させた衝撃が大きかったからです。

In tears, the 17-year-old Trusova cried out rink-side after learning of her silver medal: “I hate this sport! I won’t go onto the ice again!”

“I am not happy with the result,” she said. “There is no happiness.”(FOX19 NOW より)

自分が銀メダルだとわかった直後、「このスポーツは大嫌い!もう二度と氷の上には乗らない!」「ちっともうれしくない」と涙ながらに叫んだ17歳のトルソワ選手。

コーチとのハグも拒否し、笑顔がなかったと報じられています。

「ワリエワが大本命」という前評判の中、トルソワ選手が本気で金メダルを狙ってたんだと知って、その闘争心に感銘を受けました。

金メダルは逃しても、これだけの大技を成功させたのだから、「今後の人生で輝く場面はいくらでもある」と前向きになってほしいです。

大技を捨てて勝ち取った銅メダルに大喜びの坂本花織

銀メダリストとは対照的に、喜びいっぱいだったのが、銅メダルの坂本花織選手。
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英文メディアでも、次のように称賛されています。

Kaori Sakamoto of Japan was happy. She took bronze to break up an expected Russian sweep of the Olympic podium.(FOX19 NOW より)

文字通り、「金銀銅の表彰台を独占する」と予想されたロシアの牙城を崩し、堂々の3位に食い込んだのが誇らしいです。

本人も期待しなかった銅メダルの獲得は、長い苦労と厳しい練習が報われた最高の瞬間だったことでしょう。

ロシア勢が4回転ジャンプやトリプル・アクセルを軽々と決める中、高難度のジャンプをどうしても跳べなかった坂本選手。

一時は「このままスケート人生が終わるのかな」と落ちこんだこともあったそうです。

が、そこであきらめずに気持ちを切り替えたのが、彼女の偉いところ。

“I don’t have the big jumps as others would have, which is a big handicap,” said Sakamoto, who may not have the four-rotation quad in her arsenal but whose artistry was virtually unmatched. “That means I had to have perfect elements.”(FOX19 NOW より)

自ら決断した北京五輪の戦略は「大技を捨て、演技の質をとことん高めること」。

本番では、まさに、その勇気ある選択が大当たりしたといえます。

演技構成点で大きく加点され、それが銅メダル獲得につながったからです。

団体戦に続き、個人戦のショート、フリーともに、ミスのない優雅な滑りを披露したのはたいしたものです。

女子フィギュア界の異常な現状

ロシアは自国開催の2014年ソチ冬季五輪で、「国家ぐるみでドーピングに関与した」とWADAやCASに認定された経緯があります。

15歳のワリエワ選手が自らの意志で禁止薬物を摂取したとは考えにくく、周囲の関係者は責任を免れません。

最近のフィギュア女子では、ロシア勢が15〜16歳ぐらいで高難度ジャンプを武器に世界を席巻し、次の五輪までに早くも世代交代する状況が続いています。

前回の平昌五輪で金と銀をそれぞれ獲得したザギトワ選手、メドベージェワ選手が北京に出場していないのもその一例です。

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2018年平昌五輪で銀メダルのメドベージェワ(左)と金メダルのザギトワ(右)

なんだか、10代の有望な選手が次々と使い捨てされているようでぞっとします。

こちらのTweetも、その点をはっきりと指摘しています。

「ロシアの若い女子選手たちが、みんなメダル獲得のために搾取された」「フィギュア界が彼女らに謝罪すべき」という言葉が胸に刺さります。

女子フィギュアの、特にロシア勢の異常な状況をなんとかしないと、五輪がますますいびつなものになってしまいます。

また、10代という身体の成長過程で無理なことを強いられていないか、健康面を害していないのか、そちらのほうが心配です。

シニアの年齢制限を変更する、採点方法を工夫して演技力を重視するなど、早急に対策を打ち出してほしいものです。

ワリエワ選手のドーピング疑惑が、五輪改革のきっかけになることを願っています。

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6 thoughts on “ワリエワがドーピング騒動でメダル逃す大波乱!

  1. musa より:

    It was CAS’s decision that made the situation more controversial and terrible. If they say they need to protect Kamila as a minor, what about the fact that a minor was tested positive? Kamila, who is only 15,is the biggest victim.

    CAS and the Olympic Committee should have been more considerate of other figure skaters. Postponement of the award ceremony is out of the question. Olympic Committee should be more strict to follow the rules.

  2. Chieko より:

    I feel a little sympathy for Kamila Valieva because she seemed to be exploited by her nation and get tremendous mental damage. I think she might’ve gotten a gold medal without drugs.

    The decision that allowed her to play at the Beijing Games made her suffer “irreparable harm” in the end. On the other hand, I was happy to see Ms. Sakamoto’ smile. I was moved her perfect performance in that unusual circumstance.

    自分の意志でドーピングしたとも思えませんが、陽性反応が出ているのに出場できるのはさすがにフェアじゃないと思いながら観戦していました。彼女が負った批判の声や金メダルのプレッシャーを考えると、15歳で受け止めるのはあまりにも厳しいなぁと少し同情。一方で坂本選手のはじける笑顔がとても素敵でした。

  3. June より:

    Unfortunately, I have not been able to watch most of the Winter Olympics this time, but even I know what all the fuss is about Kamila. I’ve heard that in Russia, if you win a medal at the Olympics, the government will give you a huge amount of money and a fancy house. I hope the Olympics to be a place where athletes can compete purely as individuals, not as a competition for national prestige. Isn’t it time to stop counting the medals won by the country?

    ローティーンの若者が国の威信を背負ってスポーツを競うのはいかがなものでしょう?最近の日本では日の丸ではなく自己との闘いとしてオリンピック参加を楽しむ選手が増えてきたようには感じますが、もう国のメダル獲得数をニュースで高々と報じるのはやめるべきだと思います。

  4. sunflower より:

    I don’t understand the decision made by CAS. AS a result, Kamila Valieva was put into a devastating situation, which gave her too much stress, more than “irreparable harm.”
    It’s hard to imagine a teen-ager was acting alone, so her coach should be investigated more closely.

    In contrast, a big smile of Kaori Sakamoto made me happy. I admire her for improving her artistry even if she doesn’t have big jumps.

    ワリエワ選手、疑惑が晴れたら、また素晴らしい演技を見せてほしいですね。

  5. コリー より:

    It is necessary to raise the age limit at the Olympics, which Russia is opposed to. Coaching gifted children is a shortcut to victory, but it is important to protest the well-being of child athletes. I was surprised to read the article that Valieva could have got more than one billion yen if she had won the gold. Money is the root of all evil.

    参加することに意義がある、と子どもの頃に教えられました。あの教えは何だったんでしょうか?日本の坂本選手をとても誇りに思います。

  6. Kuni より:

    CAS’s judgment is crazy, the rule is a rule!

    Probably, Kamila Valieva is one of the victims as a Russian Olympic athlete.

    She lost from tremendous mental pressure.

    However, how can you say to only a 15-year-old young girl “Why did you let it go? Why did you stop fighting?” as her coach and as a human, without saying any words of consolation?

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