全豪テニス:観客を敵に回して大逆転負けのメドベージェフ

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優勝したナダル(左)と準優勝のメドベージェフ(右)

観客の圧倒的なナダル応援に傷ついたメドベージェフ

1月30日の全豪オープン男子シングルス決勝は、5時間24分におよぶ死闘の末、ラファエル・ナダル(スペイン)がダニール・メドベージェフ(ロシア)を破って13年ぶり2度目の制覇を果たしました。

今回の優勝により、ナダルは4大大会の優勝回数が通算21回となり、タイ記録で並んでいたロジャー・フェデラー(スイス)とノバク・ジョコビッチ(セルビア)を抜いて単独トップに立ったわけです。

この決勝を会場で観戦した観客や世界中の視聴者のうち、ほとんどがナダルの勝利を願っていたのではないでしょうか。

ナダルといえば、テニスに注ぐ熱い情熱や、謙虚で人間味あふれる言動から、フェデラーと並んで世界一人気のある選手です。

なので、対戦相手のメドベージェフより、ナダルの応援のほうが圧倒的に大きくて当然かもしれません。

が、試合中の光景や終了後のメドベージェフの記者会見を聞いていると、そう簡単には割り切れず、複雑な気分になりました。

つまり、彼は自分への応援の少なさにショックを受け、「もう純粋な気持ちでプレーできない」という趣旨の発言までしているのです。

以下、英語のTweetや英文記事を引用しながら、この試合をメドベージェフの視点から振り返ってみます。

「観客は明らかにナダル寄りだ」:英語Tweetより

全豪の男子決勝に関して投稿された英語Tweetを幾つか引用すると、こんな感じです。

※英語の綴りや文法が正しくないものもありますが、原文のままです。

I’m a huge Novak Djokovic fan but today I’m rooting for Rafa Nadal against Medvedev at the Australia Open.

(私はジョコビッチの大ファンだけど、今日の全豪はメドベージェフと対戦するナダルを応援してる!)

Rafael Nadal is the best fighter in the history of Sports.

(ナダルはスポーツ界で史上最高のファイター)

やはり、こういう「ナダル応援」のツイートが目立っていました。いっぽう、少数ながら、観客の露骨なまでのナダル贔屓(びいき)の態度にうんざりした人たちもいるようです。

The crowd favorite is obviously Nadal.(観客は明らかにナダル寄りだ)

Great australia open final going on under the worssst spectators ever.

(最高の全豪オープン決勝だけど、観客どもは史上最っ低だな)

↑これ、WOWOWの生中継を観ていた私も感じていました。

試合中、ちょっと画面から目を離して音だけ聞いていたとき、どっちの選手がポイントを取ったのかハッキリわかったからです。

▶観客:ウォー〜!(歓喜の叫び)⇒ あ、ここはラファが取ったか。皆さん良かったね。

▶観客:(拍手がパラパラで)ほぼ静寂 ⇒ はいはい、メドベのポイントね。残念でした!

(お客さんたち、わかりやす過ぎる)って笑えるぐらいのレベルでした。

「最低のオーストラリア人ファンたちがメドベージェフを再起不能にした」

このショッキングな表現は、英語Tweetの中から見つけた記事の見出しを和訳したものです。

Awful Australian fans have completely ruined Daniil Medvedev forever

別に身体が壊れたわけじゃないので「再起不能」は大げさですが、「completely ruined(完全に叩きのめした)」「forever(永遠に)」とあるので、忠実に和訳するとそうなります。

ご参考までに、この英文の内容に近い日本語の記事もご紹介しておきます。

テニス全豪 メドベージェフ大逆転負け「僕に勝ってほしい人はいない」

試合後の記者会見の中で、彼が本音をポロリと漏らした部分を引用します。

“I’m just going to give one small example. Before Rafa serves even in the fifth set, there would be some somebody, and I would even be surprised, like one guy screaming, ‘C’mon, Daniil,’” he said.

ちょっとした例を挙げるとこんな感じだ。第5セットでラファがサーブを打つ前、もし誰かが「ダニール、頑張れ!」なんて叫んだとしたら、そりゃびっくりしただろうよ。

↑これは明らかに皮肉ですね。サーブを打つときは集中力がいりますから、観客は黙って見守るのが選手に対する礼儀です。

が、超人気者のナダルと対戦する相手は、自分がサーブを打つ直前に、彼のファンが‘C’mon, Rafa,’という声援を(ときにはわざと)飛ばす場面に遭遇します。

その結果、対戦相手は気が散ってうまく打てず、ダブル・フォルトをおかすこともあるのです。

逆に、ナダルがサーブを打つときは誰も邪魔したくないので、静寂の中で、‘C’mon, Daniil,’ などと自分(=メドベージェフ)を応援してくれる変わり者がいたら、それは驚きだよ、というわけです。

“A thousand people would be like, ‘Tsss, tsss, tsss’. That sound. Before my serve, I didn’t hear it. It’s disappointing. It’s disrespectful, it’s disappointing. I’m not sure after 30 years I’m going to want to play tennis.”

ラファのサーブのときは、千人の観客全員が「しーっ!静かに!」って感じだ。でも、僕がサーブするときは「しーっ!」の声がなかった。失礼な態度だし、本当にがっかりだよ。今後、長年テニスをやりたいと思うかどうかわからないね。

実際、メドベージェフがサーブを打つ直前に観客の誰かが奇声をあげたり、サーブが入らなかったときに拍手が起きたり、でけっこうひどかったです。

なので、サーブを打つときの妨害に関しては、個人的に”I couldn’t agree more!”(まさにその通り)で彼に同意します。

もちろん、このせいでナダルが勝ったわけではないですが、観客が勝敗の行方を左右するなんて言語道断です。

Daniil Medvedev Press Conference (F) | Australian Open 2022

全豪オープン決勝に敗れた後のメドベージェフの記者会見です。上記の英文記事から引用したのは、この会見中の発言です。


メドベージェフ記者会見の英語スクリプト

主な発言を引用

From now on I’m playing for myself, for my family, to provide my family, for people that trust in me, of course for all the Russians because I feel a lot of support there.

これからは自分のため、家族のため、自分を信じてくれる人のため、そして支えてくれるロシアの人のためにプレーしていこうと思う。

When I also started to get just a little bit higher, like top 20, top 30, started to play Roger, Novak, Rafa. We made some tough matches. I haven‘t beat them yet. There was a lot of talks.

I don’t think there is that much right now, but I remember there were a lot of talks, young generation should do better, or there were talks like people saying we really want young generation to go for it, to be better, to be stronger. I was like pumped up. Yeah, let‘s try to give them hard time and everything.

Well, I guess these people were lying because, yeah, every time I stepped on the court in these big matches, I really didn’t see much people who wanted me to win.

(自分たちの世代が)トップ20、30くらいになって、フェデラーやジョコビッチ、ナダルと、タフな試合はするけどまだ勝てなかった時は、周りに「若い世代たちよ頑張れ」とか言われて、それを励みにしてきた。

でも噓だった。大きな試合でコートに入ったら、僕に勝ってほしい人なんてほとんどいない。


なんだか、せつなくて涙が出そうでした。まだ25歳で先は長いんだから、そんなに思いつめなくても…。

観客がいつも「Big 4」を、特にフェデラーやナダルを応援するのは確かに不公平な気がします。

が、それは彼らの成し遂げた偉業を考えると、ある程度しかたのないこと。

他の全てのテニス選手が「彼らは特別だから」と受け入れているようにも見えます。

「あいつら低能で、頭がからっぽなんだろ」:メドベージェフ発言

とはいえ、メドベージェフにあまり人気がないのは、本人の言動や態度にも原因があるといえます。

それを彼自身が果たして自覚しているのかどうか・・・。

私は最近まで、彼がわざとヒール・キャラ(憎まれ役)を演じてるんだと思ってました。

なので、この記者会見の深刻な発言はちょっと意外で衝撃を受けました。

(え〜っ、人並みにお客さんに応援してもらいたの?じゃ、とりあえず態度を改めたほうが・・・)

つまり、「決勝に進むまでの試合で、観客に良い印象を与えていなかった」という意味です。

まあいろいろありましたが、例えばこんな感じですね。

2回戦で地元オーストラリアのキリオスに勝利した後の記者会見で、自分のサーブを邪魔した観客のことを “They are idiots. No brains,” “Empty brains.”と揶揄(やゆ)したかと思えば、

準決勝のチチパス戦の試合中、「彼(=チチパス)の父親が観客席からずっとコーチングしてるのに、なんで反則の警告を与えないんだ!」とモノ凄い形相で主審に食ってかかったり。

※その後、チチパスは父親のコーチング疑惑で実際に警告を取られましたが・・・。

Medvedev absolutely EXPLODES at chair umpire | Australian Open 2022


主審に向かって “Look at me! I”m talking to you!”(オラこっち向けよ!アンタにしゃべってんだよ)なんて態度はいただけません。

いくらトップ選手でも、主審に対するリスペクトなさすぎです。”Grow up, Daniil!”(大人になろうよ〜、ダニール!)

この気性の激しさと憎たらしいとこを直さないと、ラファみたいな愛されキャラには、たぶん(じゃなくて、絶対)なれないと思いますね・・・。

決勝で彼への応援が少なかったのを、 ”You deserve it!”(そりゃ当然の報いだろ)と同情しなかった人がいても驚きません。

メドベージェフは「acquired taste(だんだん味の出る選手)」

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最後に、今回の全豪オープンで「誰も自分を応援してくれなかった」と嘆くメドベージェフ選手にぜひ伝えたいです。

“That’s NOT true, I’ve been rooting for you. I wanted YOU to win the title!”

(それは違うよ、私はずっと応援してたから。あなたに優勝してほしかった)

はい、そうなんです。ナダルも好きな選手だけど、今大会で勝てなかったとしても、もう歴史に名を残している人なので。

それより、この  “very smart, outspoken, and clumsy”(めっちゃ頭いいけど、口が悪くて不器用な)メドベージェフに、今後は活躍してもらいたいと思ってます。

テニスの実力といい、しぶといプレー・スタイルや観客を煽るヒール的な言動といい、文句なしに「王者ジョコビッチの後継者」ですから。

きっと、同じように彼を応援しているテニスファンが、世界中にたくさんいるはずです。

メドベージェフのような選手は、パッと見て応援されるタイプじゃない気がします。態度に可愛げがないからです。

が、何度も試合を見て、記者会見での思慮深い発言を聞いているうちに、じわじわと良さがわかってくるのです。

こういう人(や物)を英語で「acquired taste」と呼びます。

“He is an acquired taste.”(彼は、だんだん味の出る人ですよ)のように使います。

いわば、外国人にとっての「納豆」みたいなものでしょうか。

“Natto is an acquired taste.”(納豆は、美味しさがわかるまで時間がかかる)

選手を納豆に例えるなんて失礼でしょうか。でもまあ、本当にそんな感じなんです。

たぶん、近いうちに世界No.1を狙えるNext Gen(若手世代)の選手はメドベージェフしかいません。

大ファンってわけじゃないけど、「信念を貫く一途な姿勢」を応援したくなる選手です。

Go for it, Daniil! I’m sure you have a bright future ahead of you,!

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ロシア国旗を削除した世界王者メドベージェフ

6 thoughts on “全豪テニス:観客を敵に回して大逆転負けのメドベージェフ

  1. hashiboso より:

    I hope my favorite players victory, but I also expect their great performances and good games. And we also join the games when we watch them. If we want players to be good personality and play both, we should be the same and respect them.

    ひいきの選手には試合に勝ってほしいですが、同時に素晴らしいプレイや試合も楽しみです。試合は選手だけでなく、見ている私たちも参加していると思います。もし選手たちにいい人柄やプレイを望むのであれば、私たちもそうでないと。そして選手も尊敬しないといけないですね。

  2. Chelsea より:

    This is very interesting column! I could understand what happened in Australian Open. Though I don’t know about the tennis world well, this article made me interested in professional tennis players, especially Medvedev.

    とても面白く読ませていただきました!BIG4に挑むことを目標に励ましてくれた人も、いざ戦うと応援してくれないというメドベージェフの発言が印象的でした。選手の会見やSNSを見ると、試合だけでは汲み取れない物語があることが分かりますね。

  3. June より:

    Not only in sports, but in any other world, it is more interesting to have not only good people, but also characters who have quirks and are hated. Medvedev seems to have sulked, but I’m a navel-gazer, so I’m going to support him.
    テニスは全く疎いのですが、今回の記事ではメドベージェフに同情しました。世の中、いい人ばっかりじゃつまらないです。こんな癖キャラ、私は好きです。

  4. Yolanda より:

    That‘s a very interesting article! Many older people must have remembered John McEnroe, nicknamed “ Brat”. He was known for outstanding tennis skills and confrontational behavior. He was compared with Bjorn Borg, known as ‘ Ice man’ because he was calm and cool even on the tennis court.

    非常に面白い記事でした!年配の方々は、「悪童」とあだ名されたジョン・マッケンローを思い出したのでは? ズバ抜けたテニス技能と問題行動で知られていたので。「アイス・マン(氷の男)」で知られたビヨルン・ボルグと比較されてましたね。ボルグのほうは、テニス・コートでも沈着冷静でしたから。

  5. ともへび より:

    Thank you for the intriguing topic, Alicia! I’m not a big fan of professional tennis but your opinion gave me a good opportunity to learn and think about it.

    It was totally unfair that Medvedev was intimidated by audience. I believe there are definitely fans to keep rooting for you if he keeps playing at courts.

    興味深い話題をありがとう、アリシア! 大のテニス・ファンじゃないけど、意見を聞いて、この問題を考える良い機会になりました。メドベージェフが観客に脅されたなんて、全く不公平ですね。彼がコートでプレーを続ける限り、応援してくれるファンが絶対にいますよ。

  6. Kuni より:

    I accept the excessive cheering for someone’s favorite athlete when he/she is performing at a competition. However, it is not acceptable to have completely ruined an opponent of the player. You need to make respect even if the opponent is not your favorite player.

    試合で自分のひいき選手に大声援を送るのはいいけど、対戦相手を打ちのめすのはダメですね。たとえ自分の好きな選手じゃなくても、ちゃんとリスペクトしないと。

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