ウィル・スミスの平手打ち:日米の反応に温度差

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米国ロサンゼルスで3月27日夜に開催されたアカデミー賞授賞式で、俳優のウィル・スミスがコメディアンのクリス・ロックを平手打ちにして物議をかもした件。

クリスがウィルの妻ジェイダの脱毛症をネタにしたことにウィルが激怒し、壇上で殴ったうえに放送禁止用語で罵倒したため、テレビの生中継が中断するほどの大騒動になっています。

問題のシーンを映した動画がこちら。後ほどご紹介するメルマガ読者さんに教えていただきました。

↓現地の生中継でカットされた “your f**king mouth“ の「4文字 F-word」が入っています。

Will Smith slap: Celebrities react to shocking Oscars 2022 moment


この直後、皮肉にも主演男優賞を受賞したウィルは、受賞スピーチで自分の行動を涙ながらに謝罪しました。

さらに、「米映画芸術科学アカデミーからの退会」を表明するに至っています。

今週末に配信する「通訳式やさしい英語ニュース」のディクテーション・クイズでは、この話題を取り上げる予定です。

ディクテーション・クイズは、次の英文記事を土台にして作成します。

土台となる英文記事:BBC News (March 28, 2022)

日本語版は元の英語版の完全な和訳ではなく、文章の構成や流れが異なっている箇所もあります。

SNSで垣間見られる日米の反応の違い

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英文記事の解説は次回以降におこなうとして、今回注目したいのが、「ウィル・スミスの平手打ち騒動に対する日米の温度差」です。

この点を指摘したネット記事が出ていますので、一部を引用します。

「ウィル・スミスの『平手打ち』が、日本人が思ってる以上に「かなりマズい」理由」(現代ビジネス)

ウィル・スミスのこの言動について、日本とアメリカでは受け止め方に温度差があるようだ。

例えば、日本ではSNSを中心に、ウィルの言動に一定の理解を示す声が多く上がっている。その理由として「妻のために闘ったウィルは、男らしくかっこいい」「病気の家族をイジられ侮辱されるのは耐えられないから(ビンタも含め)許容できる」というものだ。

しかし、長年アメリカに住む筆者は騒動を知った時、この一連の行動は「かなりまずい」と思った。

もちろん人の見た目を笑いにするクリスも決して褒められたものではない。しかし、それを差し引いたとしても、身体的および言葉の暴力は、いかなる状況であっても決して許されることではない。

もし日本人の多くが「言葉で侮辱されて腹が立った場合、相手を殴ってもOK」と考えていたら、大いに問題ありです。

クリスに暴力をふるったウィルの行動は許容できない、という考えに私も賛成です。でも、「論点はそこだけではない」と思うんですよね。

私自身の意見を示す前に、「アメリカ人の考え方」「日本人の考え方」の両面を、もう少し具体的に検証していきます。

「身体的暴力をふるったウィル」を許せないアメリカ人

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昨日、メルマガ「通訳式やさしい英語ニュース」読者のMishaさん(米国ご在住)から、こんな興味深いメールをいただきました。

ウイル・スミスの平手打ちが話題になっていますね。

ネットニュースのコメントを見ると、日本では彼を擁護・英雄扱いする意見が多くびっくりしました。

こういうところにも考え方の違いが出るんだなあと、とても興味深いです。

この時点で私は日米の差を認識していなかったので、次のようにお尋ねしました。

ウィル・スミスさん、日本のSNSでは擁護派が多いんですか?

アメリカの世論は日本とは異なるのでしょうか。

国民性の違いが表れている、と聞いて興味津々です。

それに対するMishaさんのご返信がこちら。

そうなんです。

日本では奥さんを「守った」ウイル・スミス氏は男らしい。グーで殴ってもよかった等々…

精神的な暴力の方が罪深いという気持ち、わからなくはないですが、男らしさを示すため、正義のための身体的暴力がいまだ賞賛されるのか…とカルチャーショックでした。

言葉の暴力(クリスのジョーク)に関しても、ウイルの奥さんは自分の容姿を誇りに思うと公言していますし、事実とても美しい方ですよね。

それにデミ・ムアのG.I.Janeもカッコよくて素敵だったし、クリスの言ったことそんなに酷いことなのかな?と私は思っています。

「クリス・ロックの言ったこと」とは、”Jada, can’t wait for GI Jane 2,”(「ジェイダ、『G.I.ジェーン2』が待ちきれないよ」)です。

「G.I.ジェーン」は、女優のデミ・ムーアが短髪で海軍特殊部隊兵を演じた、1997年の映画のタイトルです。

ウィルの妻のジェイダが円形脱毛症で短髪にしていることをからかった冗談で、夫のウィルがこれにブチ切れたワケですね。

「アメリカ社会の受け止め方」に関するMishaさんのご説明です。

アメリカは何があっても身体的な暴力はダメ。

(アメリカの方が暴力的じゃね?という日本人の意見もありましたが、良識ある大多数の家庭では暴力や汚い言葉遣いに対して日本以上にとても敏感で厳しいです。)

あと奥さん(女)はウイル(男)に守ってもらう必要なんてない!という意見もありました。笑

一方で、式を台無しにしないよう一生懸命冷静さを保ち、被害届も出さなかったコメディアンのクリス・ロック氏を褒める言葉が目立ちました。

なるほど、「身体的な暴力は絶対ダメ」という意識は、アメリカのほうが厳しいのかもしれません。

ついでながら、「BBC News」の別記事にこんな記述があって驚きました。

Why did Will Smith hit Chris Rock at the Oscars?(BBC News)

Will and Jada Pinkett Smith, who have been married for 24 years, have previously spoken publicly about their extra-marital romances.

「結婚24年のスミス夫妻は、お互いに不倫相手がいることを既に公言している」という趣旨です。

ただし、この記事をよく読むと、愛情がなくなったわけでも、結婚生活が破綻したわけでもなく、複雑な夫婦関係のようです。

「言葉の暴力を謝罪しないクリス」を許せない日本人

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「どんな理由があっても身体的暴力は許せない」というアメリカ社会の考え方、とてもよくわかります。

そのいっぽうで、日本人全体が「ウィルの暴力を容認しているのではない」ことも伝えておきたいです。

こちらは、私がTwitterでATPテニス関連情報をフォローしている方の投稿です。

「物の考え方」「価値観」が自分と似ており、なかなか説得力があります。

確かに、「スタンディングオベーションで迎えられた」は意味不明です。

クリスが、「自分の発言」をどう考えているのか私も知りたいです。

別に「不適切だった」「悪かった」とは思っておらず、反省もしていないのでしょうか。

「平手打ちされたから謝る必要はない」ではなく、発言自体の是非は、それとは切り離して論じるべきです。

「病気による身体的な変化」を笑いものにする行為は、アメリカ社会ではOKなのでしょうか。

まさか、あの発言が容認されたわけではないですよね?・・・そう信じたいです。

ネタにされた本人や親族が「不快に感じた」のであれば、「発言は不適切だった」と考えるのが筋では?

私も同じ意見で、ウィルの暴力を擁護する気は全くありません。

今回の身体的暴力は大きな過ちで、本人は報いを受けて当然です。

だとしても、クリスが英雄視されることには違和感を覚えます。

少なくとも、無神経な発言をした当事者として、彼も謝罪すべきではないでしょうか。

これが、現時点での私の見解です。


・・・ただし、「自分の意見が絶対に正しいとは断言できない」と追記しておきます。

理由は、この件に関する背景知識が比較的浅いからです。

「クリスがジェイダをネタにするのは初めてではない」など、関連記事で初めて知った情報が多数あります。

アメリカと日本の反応に差があることも、Mishaさんに指摘されるまで意識していませんでした。

もし何か重要な事実を見落としている場合は、後で見方が変わる可能性があります。

読者の方から寄せられるご意見は、「多様な考え方から視野を広げる」上で大変ありがたいです。

Topicに関する意見をFacebookグループで交換しませんか?

現在、各記事のコメント欄には、「熱い思い」を語ってくださる投稿が寄せられており、うれしい限りです。

少し惜しいのが、ブログのコメント欄という形式では、なかなか双方向のやりとりに発展しにくい点です。

これを、できれば「もっと気軽に意見交換できる形式」に進化させたいと思っています。

特に昨日のMishaさんとのメールで感じたのが、「アメリカ在住の方ならではの貴重な視点」です。

ネット上で世界中の情報が手に入るといっても、やはり、「日本にいるとわからない肌感覚」があるものです。

住んでいる国の違いだけではなく、生まれ育った環境や年代、性別によって、物の感じ方は様々でしょう。

そういう「多様な意見に触れ合う場所」として、読者限定の無料Facebookグループを活用できたら、と考えました。

ブログのコメント欄にご意見を投稿くださる方、その他の読者の皆さん、いかがでしょうか。

「ウクライナ危機」「ウィルの平手打ち」などの旬な時事問題やその他の話題を、みんなで自由に話し合いませんか。

Facebookグループは、「読者仲間だけが閲覧できる空間」に設定します。投稿は日本語でも英語でもOKです。

楽しみながら交流するのが趣旨なので、気が向いたときに気軽に立ち寄れる場所にしたいです。

ご興味のある方は、メルマガ「通訳式やさしい英語ニュース」の案内をぜひご覧ください。

今後、読者の皆さまと交流できるのを楽しみにお待ちしております。

合わせて、Twitterでも発信と意見交換の機会を別途作っていきます。

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8 thoughts on “ウィル・スミスの平手打ち:日米の反応に温度差

  1. 吉田淑子 より:

    いきなりの平手打ちには驚きました。暴力はいけないがではどうすればよかつたのか? 空を打つ? 言葉の暴力はゆるされる?あくまてジョークとしてうけながさなければならない? 奥さんの人知れずの苦悩を知ってるから許されなかったと推察します。スミスが謝ってるのだからクリスも軽くてもいいから、君にとっては痛いジョークだつたんだね。悪かったね、くらいは謝って欲しい。

    1. Misha より:

      吉田淑子さん

      暴力に訴えず、理性的に言葉で抗議するべきだったと思います。できればセレモニーが終わってから。

      ウイルからも直接クリスへの謝罪は無いと言われているように思いますがどうなんでしょうか?本当に真実はわかりません。

  2. koback より:

    様々な情報が出てきて、何が何だか分からなくなっています。背景など冷静に考える必要があると感じました。

    今日になって、「ウィル・スミスを激怒させたクリス・ロックは「非言語性学習障害」だった」という新情報も出てきました。

    心無いジョークを言ったクリス・ロックをウィル・スミスが怒りに任せて殴った、という簡単な構図ではないということが分かりました。

    ニュースを見て瞬間的に反応するのではなく、冷静に考える必要もある、と感じています。

    1. Misha より:

      kobackさん
      「ウイルは奥さんを守るためではなく、男らしい良い夫であるのを見せるためクリスに暴力を振るい罵った。」と考える人がアメリカには少なからずいるのかな?と思ったりします。「クリスには言って良いこと、悪いことを判断する能力がない。」「いや彼はジェイダの病気のことを知らなかった。」等色々言われていますね。kobackさんがおっしゃるように真実は見え辛いので、安易に人を批判、非難してはいけないと改めて思いました。

  3. sunflower より:

    由緒ある授賞式でのウイル・スミスさんの暴力行為、「家族を守るため」?とはいえ、確かにショッキングでした。ステージで最初笑ってらしたのも、不思議でした。もう少し別の対応があったのかも、と思います。

    クリス・ロック氏については、今回の件で初めて知ったので、彼の発言に至った経緯はわからないですが、アメリカの stand-up comedians って、政治・社会的なことを皮肉っぽく笑いにするようなイメージを持っていたので、クリス氏の発言が joke には全然聞こえなかったです。日本のお笑いは、相方を笑いネタにすることはあると思いますが…

    This incident on the Oscars stage will be remembered almost forever.

    1. Misha より:

      sunflower さん
      そうなんです。ウイル、クリスのジョークに笑っていたのに、奥さんをチラ見し、笑っていないのに気づいて急に怒り出した感じがしました。アメリカではそういうコメントが結構あります。みんなよく見てますね。苦笑 それとアメリカのスタンダップコメディアンは「大物をいたぶってなんぼ。大物はいたぶられるのも仕事のうち。」というのがあるので、クリスに謝罪を求める声が少ないのかもしれません。

  4. Misha より:

    ウイル・スミス氏が、子供もテレビで見ていた伝統あるお祝いの場で身体的暴力を振るい、F-wordを炸裂させたことのインパクトが強すぎて、クリス・ロック氏の悪いジョークが霞んでしまったのではないかと思います。もしスミス氏が冷静に抗議していれば違う結果になったのでは?とどなたかがおっしゃっていましたが、私もそう思います。アメリカではそれだけ身体的暴力とFワードはbig no-noということでしょうか。

    I wish Mr. Smith had handled his emotions differently for everyone, including his wife and himself. 

    1. Aki@英語ニュース より:

      Mishaさん、昨日のメールに引き続きコメントありがとうございます!今回のご意見、同感です。ぜひFacebookグループで続きを語り合いましょう!手続きがわかりにくければご連絡くださいね。

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