誤給付金の9割を回収【英語ニュース作成の裏側】

現在、「通訳式やさしい英語ニュース」の英文作成は、実務翻訳者でもあるアメリカ人ライターが担当しています。

毎回の原稿執筆を依頼する際は、参照元の英文記事を示し、その内容を50単語程度に要約してもらっています。

今回は、先日アップした「事務的ミスが町の大きな頭痛の種に【Clerical error causes major headaches for town】」の「原稿完成」までの舞台裏を公開します。

前回同様、「ネイティブが英語表現をどう捉えているのか」「どんな修正依頼をしているのか」の観点から、英文読解とライティングの参考になれば幸いです。

【Clerical error causes major headaches for town】の原稿完成まで

時事Topic「誤給付金の9割を回収」は、次の英文記事をソースとして選びました。

初稿 ▶ 修正版1

まず、アメリカ人ライターから納品された初稿の英文は、次の通りです。

初稿

Clerical error causes major headaches for town

A 24-year-old man in a small town in Yamaguchi Prefecture accidentally received ¥46.3 million yen in COVID relief funds due to an error by municipal staff. 90% of the money, most of which the man used to settle debts, has been recovered. He was arrested on charges of wire fraud.

青字の部分が気になったので、ライターに以下の2点を確認しました。

▶本文が数字から始まる場合、英文記事に慣例にしたがって「Ninety」とスペルアウトするのが良いのでは?

▶この男性が「多額の借金を抱えていた」ようにも解釈できるため、この表現は改定の余地があるのでは?

合わせて以下の修正版を提案し、理由を付記しました。

修正版1

Clerical error causes major headaches for town

A 24-year-old man in a small town in Yamaguchi Prefecture accidentally received ¥46.3 million yen in COVID relief funds due to an error by municipal staff. About 90 percent of the money, all of which the man used on online casinos overseas, has been recovered.

▶冒頭に「About」を付けることで、算用数字90で違和感なく表記できるようになる。

▶本人の発言から、「この男性が全額をオンラインカジノに使った」という内容に差し替えた。

さらに、「casinos」を盛り込んだ理由を次のように説明しました。

As you know, lots of Japanese people mistakenly pronounce this word such as “ka-ji-no” or “ka-zi-no”.

So this news summary would give them a good opportunity to learn correct pronunciation.

この単語を「カジノ」「カズィノ」のように間違えて発音する日本人が多いでしょ。

だから、このニュース要約(=やさしい英語ニュース)が、正しい発音を知る良い機会になるといいかな、と思って。

修正版1▶ 修正版2

ほどなく、ライターから返信が届きました。

私の提示した修正案にほぼ賛成しつつ、以下の貴重な提案がありました。

I think your suggested change is fine, except it’s not exactly clear what the man really did with the money, so how about:

(提案通りの修正でいいと思うけど、1点だけ。この男性が金をどう使ったのか、正確にはわかってないよね。なので、こんなのはどうかな。)

修正版2

A 24-year-old man in a small town in Yamaguchi Prefecture accidentally received ¥46.3 million yen in COVID relief funds due to an error by municipal staff. About 90 percent of the money, all of which the man said he used on overseas online casinos, has been recovered.

I added “said he” and also changed the order from “online casinos overseas” to “overseas online casinos” (the former makes it sound like maybe he went overseas and spent the money, whereas the latter makes it clear that “overseas” refers to where the casinos are based, not where he spent the money.)

※①:「オンラインカジノに使った」というのは、あくまで本人の主張なので、「男性の話によると」という但し書きを加えた。

※②online casinos overseas」の語順にすると、「彼が海外に出かけて金を使った」という意味に解釈することも可能。

いっぽう「overseas online casinos」のほうは、「overseas」が「彼が金を使った場所」ではなく、「カジノの拠点」を指していることが明確になる。

▶ いずれも、ネイティブのライターならではの鋭い指摘でした。

確かに、「全額をカジノに使った」というのは客観的な裏付けが完全に取れたわけではないため、「the man said he used」としたほうが無難です。

また、「online casinos overseas」の語順は、参照元の英文記事の表現を引用したものです。

この「overseas」は「海外にある」という意味の副詞です。

文法的には合っているのですが、ライターの提案した「overseas online casinos」のほうが、意味がより明確に伝わります。

こちらの「overseas」は「海外の」という意味の形容詞で、名詞「casinos」を修飾しています。

修正版2▶ 完成版

ライターの修正版で英文そのものは完成でしたが、次の2点から少し修正する必要がありました。

1)all of which the man said he used:当初の「all of which the man used」に太字部分を加えたため、英文構成が学習者にとって複雑になり、リピートや暗唱への負担が増える。

2)英語ニュース全体の単語数が、50単語の制限をかなり超過してしまう。

全体の長さが50単語を大幅に超過せず、複雑な構文にならないよう配慮した結果、以下の完成版となりました。

完成版

Clerical error causes major headaches for town

A 24-year-old man in a town in Yamaguchi Prefecture accidentally received ¥46.3 million yen in COVID relief funds due to an error by municipal staff. About 90 percent of the money, which the man said he used on overseas online casinos, has been recovered. He was arrested on charges of wire fraud.

▶「a small town >> a town」に変更
▶「all of which >> which」に変更

「 he used(使った)」と「he had used(使ってしまった)」

ついでながら、太字の部分がどちらでも文法的に正しいことをライターに確認しました。

A) About 90 percent of the money, which the man said he used on overseas online casinos

B) About 90 percent of the money, which the man said he had used on overseas online casinos

今回の「やさしい英語ニュース」では、わかりやすさを優先して、A)の時制(過去形)を選択しています。

先日のディクテーション課題の答案の中に、「過去完了形が正しいはずだから “had” を入れた」という例がありました。

おそらく、「男性がお金を使い切ったのが先」で、「使ったと発言したのが後」だから、「had used」(過去完了)「said」(過去)と時制をずらしたのでしょう。

考え方は合っていますが、「使ったのが先」という物事の順序は、時制をずらさなくても自明ですから、「he used」の過去形が間違っているわけではありません。

ただし、過去完了形の「he had used」を使うほうが、「既に金を使ってしまって手元に残っていない」というニュアンスを強く出すことができます。

このため、自分で英文を作成するときに、そのような意図を持って過去完了形を選択するのはありだと思います。


以上、先日の「通訳式やさしい英語ニュース」補足情報としてお役に立ちましたら幸いです。

英文作成をネイティブに任せるにしても、刻々と変わる時事情勢を反映した英語ニュースにまとめるには、依頼する側にも知識が必要です。

そういう意味では、納品された原稿が「こちらの意図した通りの仕上がりになっているか」を吟味するのが自分の役目だと思っています。

今後も、アメリカ人ライターと二人三脚で、質の高い「通訳式やさしい英語ニュース」をお届けしていきますね。

この記事に関してご意見、ご感想がありましたら、ぜひコメント欄からお聞かせください。

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2 thoughts on “誤給付金の9割を回収【英語ニュース作成の裏側】

  1. June より:

    今回の裏話も非常に興味深かったです。私もImogeneさんと同じ道場のクラスでちょうど過去完了形の使い方について仲間と論議したところだったので、今回の裏話はドンピシャリでうれしかったです。

    ‘overseas online casinos’と、’overseas’が前に来るのも引っかかっていたのですが「なるほど!」と思わず膝をたたいてしまいました。

    限られた字数で正確に伝える文を書くためには言葉の吟味だけでなく語順も重要なのですね。記事作成の面白さが伝わってきました。ありがとうございました。

  2. Imogene より:

    今回の作成の裏側も大変興味深かったです。特に最後のhadを入れる入れないについては、先週の道場のクラスでも似たような趣旨の議論があったばかりで、私は「意味が通じるなら文法をシンプル化する」という結論に大いに共感しました。加えて、hadの過去完了で”終わってしまった”感を醸し出すのが最近の英作文のマイブームなので、それについてのコメントもド真ん中でした。助動詞の持つニュアンスを意図的に活用できるようになりたいです。

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