とんだミスマッチ

スイスで暮らしていると、日本人としての自分の存在自体が“珍しいもの”なんだということを思い知らされる場面に出くわします。周囲にいる人は皆親切で、日本から来た私に好意的だったのですが、彼らのちょっとした言動に傷ついた経験もあるのです。

ラズベリー

ホームステイ先の家族は大きなマンションに住んでおり、同じ階に、奥さんと仲のよい主婦がいました。

あるとき、近所の家族たちがマンションの中庭に集まってバーベキューパーティをしたことがあり、私も参加しました。その主婦の女性は、何枚かスナップ写真をとっていたようです。

何日かして、その女性がホストファミリー一家と私に、地下の展示コーナーに来るように促したので見に行くと、壁の掲示板にバーベキューのときの写真が展示してありました。

と、彼女が私に対して、うれしそうに言ったのです。「これがあなたのコーナーよ」

見ると、私が写っている写真がひとつの箇所にまとめて貼ってあります。写真を撮られるのが苦手な私はあまりありがたくなかったものの、それよりも驚いたのは、これらの写真の横に付け足してある説明文のような文字です。つたない字でしたが、日本語の文であることはわかりました。

「ほら、これ見て。ニホンゴをいっしょうけんめい写して書いたのよ。すごいでしょ」 文意をたどっていくと、なんとそれは、「太鼓のたたき方」を解説したマニュアルだったのです。数枚あった私の写真の横には、どれも、「タイコのしゅるいは・・・」「タイコのバチのもちかたは・・・」などの文が必ず添えられていました。

もちろん、写真と文には何の関係もなく、書き写した本人も意味をわかっていません。まあ、そのとんちんかんぶりはおもしろい状況かもしれませんが、そのときの私は、(なんであたしがタイコやの・・・)とムッしてしまったのです。

ですが、日本人の写真の横に日本語を添えたことに大満足していた主婦の笑顔を見て、そんなそぶりを態度に表すことはできませんでした。

心の広い豪快な人だったら、逆に「あなたが写したこの文、どういう意味か知ってる~?」って教えてあげるぐらいだったかもしれませんね。あのとき、そういう気分になれずに傷ついてしまった自分をちょっと情けないと思います。

でも、自分が国内で外国人に接するときも、同様のことを無神経にしていないかどうか気をつけるきっかけにもなりました。これも、スイスのホームステイ先での貴重な思い出のひとつです。

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