日本文化の逆襲

前回のドイツ語発音の話について。もし、発音の不正確さを指摘されたのがドイツ語のレッスン中なら状況は別ですが、だとしても、このスイス人男子生徒の言い方にはちょっと問題がありそうです。

でも、相手はしょせん、外国語で苦労した経験のない15歳の子だから・・・当初、私はそういうふうに納得していました。でも、この出来事には続きがあったのです。

サンタクロース

同じ日本文化の実技授業でのことです。簡単な日本語の単語を私が外国人の生徒たちに教え、皆で発音の練習をしていました。

単語レベルで考えると、日本語の母音は英語やドイツ語より数が少ないので、欧米人は割合に正確な発音ができるようです。

そこへ、生徒のひとりがうろ覚えのまま、ある単語について全く違う発音をしました。

それを聞いた私が「あ、それはこういう音だよ」と間違いを正すと、またしても例の男子生徒がこんな横やりを入れてきたのです。

「あのさあ、そんなのどーだっていいじゃないか。日本語なんてさー、僕たちには全然必要じゃないんだから、デタラメでもなんでも、テキトーにしゃべってりゃすむじゃん。いちいち間違いを正すなんてバカみたい」 

それを聞いた私は、今度はもろに“カチン”ときました。その前に、ドイツ語の発音で彼がこと細かに注文をつけてきたこともあったのでよけいに頭にきたのです。外国人にそこまで完璧を求めるんだったら、そっちも日本文化に敬意を払うべきなのに、なんだ、その態度は~!

そこで、ブチ切れた私はこの男子生徒と口論になりました。日本語をオモチャ扱いする彼の態度が許せず、反省するように言いましたが口答えをするばかり。おまけに、向こうはネイティブですからドイツ語で議論しても簡単に勝てるわけがないのです。

これはラチがあかん、と思った私は彼にある提案をしました。

「じゃあ、こうしましょう。あなたと私のどちらの言い分が正しいか、第3者に判断してもらうの。あなたのファミリーの先生(担任の教師みたいなもの)のところへ一緒に行こう!」

その教師は40代ぐらいのイギリス人女性で、人望が厚く、学校の次期幹部になる人でした。信頼できる彼女に話すのが一番だと思ったからです。すると、この生徒はひどくおじけづき、とたんに態度を変えたのです。

「え、彼女に言うの?! 」「そうよ。自分が正しいと思ってるんだったら堂々としてればいいでしょ」「お願い、お願い、彼女にだけは言わないで」

どうやら彼は、そのイギリス人教師に話したら必ず自分が叱られるということを予想していたようです。つまり、悪いのは自分だと本当はわかっていたのです。

そして、さっきまでの態度がうそのように、一転して“ごめんなさい、ごめんなさい”と皆の前で謝り出したのです。

(ばかなやつ・・・) そのイギリス人女性に比べて自分がなめられていることが情けなくもありましたが、とにかく本人が人前で恥をしのんで許しを求めているので応じないわけにはいきませんでした。

授業の後で、私は言葉で伝えられなかった日本文化への思いや、なぜ彼の態度に腹が立ったかという理由をドイツ語で手紙に書きました。それを、同僚のスイス人教師に推敲してもらったうえで、当人に手渡したのです。

担任の教師に言いつけるかどうか、というそれだけの問題にしてほしくなかったからです。外国人の私がドイツ語で長い手紙を書いてきたことにその生徒は感銘を受けたようで、それに対していっさい反論はせず、二度と横柄な態度をとることはなくなりました。

それにしても、外国人がその国の人たちに対等に認めてもらうのはかくも骨の折れることなんでしょうかね~。

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